負けず嫌いな性格が夢中にさせた女優への道
「出来ないのは私だけ・・・何をしたらよいかも分からずに、立ちすくんでいたんです。芝居の稽古をやっても私だけ何か違う・・・」そう語るのは、数々のドラマや舞台で女優として活躍を続ける須藤理彩さん。
高校時代は陸上に打ち込み、インターハイに出場。部活を引退すると『これから何をすればいいのだろう』と空虚感が広がった。そんな時、「好きなタレントに会えるかも」という理由で姉からアミューズが開催している「10時間オーディション」を受けるように勧められた。
殺風景な会議室で行われたオーディションは、タレントに会えるという雰囲気はまるでなかった。週に1回5時間程、半年間のレッスンを続け、事務所に所属するか否かを決めるという。
バイトをしながら、習い事のような気持ちで始めたレッスンだったが、あまりにも出来ないことばかりなのが悔しく、気づいたら夢中になっていた。
「一緒にレッスンを受けている人たちは、子供の頃にアニーに出ていたり、コマーシャルに出ていたりしていて、素人は私だけでした。そんな中、レッスンを受けていると出来ないことが多すぎて、負けず嫌いな私はどうにかして出来るようになりたいと思うようになりました。周囲の人たちは台本を持たずにレッスンを受けていたのに、私はどう台詞を覚えたらよいかも分からない状態。それまで『E.T』しか見たことがなかったが、参考にしようと数々の映画を見たり、自宅でも演技の練習をしたりと本気で取り組み始めました」
100時間のレッスンを終了し、事務所に所属を問われたときには自ら「女優としてやっていきたい」と気持ちを強く固めていた。
NHK連続ドラマでの初ヒロイン役
事務所に所属してから3年目に訪れた大きなチャンス。それがNHKの連続テレビ小説「天うらら」のヒロイン役。親からも『3年やってダメなら、違う仕事も考えなさい』と言われていたので、ぎりぎりの時期だった。「天うらら」のオーディションを受けてから随分経った頃の突然の知らせ。日常の世界が一変した。
「当時はまだバイトをしながら、芸能界の仕事をしていました。急な記者会見のためにバイトを休んだのを覚えています。記者会見の様子をテレビや新聞各社に大きく取り上げられ、役の大きさを実感しました」
記者会見の翌日から撮影が開始。ベテランキャストの方々と初めて共演する大きな現場。演技のレッスンを受けて3年足らず、経験も浅いので不安も大きかったのではないかと尋ねると
「撮影中は不安も感じず、役を演じていました。共演者の方々にも特に指摘を受けるもなかったので、自分ではしっかり出来ていると思っていたんです」
当時の演技を振り返り『未熟だった』と感じたのは次の仕事に入ってからだったと言う。
「初めての連続ドラマでは共演者の方々が家族のように温かく接してくれました。演技の面でも私の出来ない部分や未熟な部分を何も言わずに全部フォローしてくれていたんです。次の現場に1人で行って、その時に改めて気づきました」
「舞台」は成長の糧
NHK連続ドラマから2年経った2000年、須藤さんは初舞台に立った。それまで経験していた、ドラマでの演技は即戦力を求められる。その時に持っている力を出し、演技をする。しかし、舞台は違った。舞台は「今出来なくても、ここで待っているから、ここに来て」とより高いレベルの成長を求められた。
初舞台は野田秀樹演出のNODA MAP第8回講演『カノン』。今でも自分の演技が正しかったのか分からないと語る。
「初めての舞台はとにかく難しかった。出来ないことを改めて実感する毎日でした。演出家から『出来ないのだから、出来る振りをするな』、『出来なくても、一生懸命やれば必ず伝わる』と教えられ、とにかく必死でやるしかありませんでした。その結果、稽古初日には全く表現しきれなかった感情を千秋楽には表せるようになっていたりと自分自身の成長を感じることができました」
自らの成長に貪欲な須藤さんは、それからも積極的に舞台に立つことを選んだ。
2011年3月、舞台「スピリチュアルな1日」
今年もまた新たな舞台にチャレンジする。3月30日から紀伊國屋サザンシアターで始まる、ホラー風味のヒューマンコメディー「スピリチュアルな1日」。まだキャストとの顔合わせも行なわれていないが、顔ぶれを知り現場の雰囲気が楽しみになった。
「話の内容も面白そうですが、役者さんとして尊敬する方たちや、お笑いの石田さんとの共演がすごく楽しみですね。石田さんはテレビで漫才をやられていても、どこかお芝居をしているような感じがあったので、芝居心のある方なんだろうなと思ってました。このメンバー構成で生み出される作品の面白さを上手く表現できればいいですね。どんな仕事でも同じだと思いますが、メンバー同士でコミュニケーションがきちんと取れているかってすごく大切なんです。それが稽古、本番を通して、作品にも伝わり、それを見ている人にも伝わるんですね」
人としての幅を広げ、
イメージにとらわれない女優になっていきたい
19歳から芸能界で仕事を初め、ドラマ、映画、ナレーターや舞台での活動、またプライベートでは結婚、出産も経験した。歳を重ね、人生経験を積んできた今、世間で持たれている「元気で明るい、頼れるお姉さん的なキャラクター」をよい意味で裏切っていきたいと言う。
「ドラマで、最後にはかなく病気で死んでしまう女性を演じたことがあったのですが、『やっぱり死なない感じがする』、『生き返りそう』と言われたことがあって。今までの元気で明るいイメージが演技より勝っているのです。これからは演技力や人間力をもっと発揮して、みんなにイメージされている部分が表とするならば、裏を見せていける女優になりたいですね」
女優として輝く須藤さんだが、プライベートでは一児の母親。幼稚園に持たせるお弁当を作り、送り迎えをする。「外でいきいき働いている母親の方が子供にもよい影響を与える」と出産後も仕事を辞めるという選択肢はなかった。ドラマの撮影中などは早朝から深夜まで家を空けるので、家族の協力を得て両立している。
「4歳になる娘はもう1人の人間としてコミュニケーションがとれるのですごく面白いです。『ママ大変だね、頑張って』と仕事を理解して応援してくれたりと、日々成長していく娘を見るのが楽しみです。仕事をしていてどんなに疲れても、家に帰ると絶対的な味方がいると思うと精神的にすごく楽になれます。家族がいてくれるから、外で仕事をがんばれるし、新しいことにチャレンジしたいと思えるのかもしれません」
歳を重ね、人間的な深みが新たな魅力となっていく須藤さん。3月に行なわれる舞台、また今後の作品で、さらに演技の幅を広げ周囲のイメージを裏切る新たな『須藤理彩』を見せてくれるのが楽しみだ。